「早くお互いに体を治さなくちゃな…」
プロデューサーは頭を掻きながらそう呟いた。

「あははっ!そうだね、早く治さな…」
プロデューサーの言葉に応える様に顔を上げた時、真の胸がドクンと大きく高鳴った。

今まで気付きもしなかったが、プロデューサーの顔はすぐ目の前にあると言ってもいい程近くにあった。

「あ…」
頬が熱くなるのを感じる。

きっと今鏡を見たら耳の先まで真っ赤に染まっているのだろう。

鼓動が早まる。

近すぎる所為で逆に目を逸らす事が出来なかった。

(ど、どうしよう…今…今って、そ…そう言う雰囲気って…奴なのかな…)
初めての状況に色々な考えが頭の中を巡っていた。

「ん…真?」
ずっと自分を見ている真を不思議に思ってプロデューサーが体を起こしながら声を掛ける。

「え…あ、はい!」

「どうした?急に黙って」
不思議そうに見つめるプロデューサーの顔が更に真を混乱させた。

(うぅ…どうすればいいんだろ…で、でも…こうなるって事は…やっぱり、ボク…)
真はキュッと目を瞑った。

「ん?」
目を開くと同時に真はプロデューサーを呼んだ。

「あ…あの、プロデューサー!」
急に声を張る真にプロデューサーは驚いていた。

「な、なに…?」
真の鼓動は自分の耳にも伝わる位、早さを増していた。

呼吸もおぼつかない。

しばらくの沈黙が流れる。



「………………………………………好き、です」

「…え」
プロデューサーは自分の耳を疑った。

間違いが無ければ真は確かに自分に想いを打ち明けた。

「えっと、その…う、うん!」
プロデューサーは戸惑ってしまい自分でも良く解らない返事をしていた。

「うん。てなんですか!?」
耳まで真っ赤に染めながら先程とは違った意味で真は泣きそうな顔をしていた。

「ご、ごめん。こう言うのは、あまり慣れてないんだよ…」
ポリポリと頬を掻きながらプロデューサーは目を逸らした。

「ダメならダメでも良いんです。でも…白黒はっきりしてください!」
真の訴えるような瞳がプロデューサーの目を見据える。

「…はぁ、完全にタイミング持って行かれた…」
溜息を吐いたかと思うとプロデューサーは良く解らない言葉を呟いた。

「ど、どう言う事ですか?」
真の質問にプロデューサーはゴソゴソとスーツの右のポケットから小さな箱を取り出した。

「誕生日、今日だよね?おめでとう、真」
真は一瞬理解に苦しんだが、直ぐに自分の誕生日だと言うことを思い出した。

「今日って…あ、そうだ…誕生日だ。イベントの事ですっかり忘れてた!」

「俺は…覚えてたぞ」
その言葉に真の瞳から涙が一粒零れ落ちた。

「ありがとう、プロデューサー!嬉しい…凄く嬉しいよ…」
プロデューサーから箱を受け取りながら真は指で涙を拭った。

「いいえ、気に入ってもらえるといいけど…」
プロデューサーの言葉は真には届かなかった。

プロデューサーが誕生日を覚えてくれてた事だけで十分だった。

リボンを解いて包み外すと小さな箱が出てきた。

「えへへっ、なんだろ?」
小さな箱を開けると中から何時ぞやの雑貨屋さんで見かけた黒猫の小物入れが顔をだした。

「あ…これ!」

「この前のお店で…ね。その中にもう一つ入ってるから」
小物入れを開けて見るとオルゴールの澄んだ音楽と一緒に2色の石が交互に連なったブレスレットが出てきた。

「キレイ…」
ブレスレットを手にとって見る。

光を浴びて半透明の緑と赤の石はそれぞれにキラキラと輝いていた。

「これも、いいの?」

「確認しなくても…と言うより俺からお願いしなきゃかな…」

「え…?」

「それ…つけてくれるか?」
突然プロデューサーは変なことを言い出した。

「もちろん、プロデューサーがくれた物をボクが要らない訳無いじゃないですか!」
そう言ってブレスレットに手を通そうとした時、プロデューサーが慌てて制止した。

「ちょ、ちょっと待った!」

「…?」

「それ…俺も同じのつけてるから…それでもいいかな…」
よく見比べて見ると確かにプロデューサーの右手にも同じブレスレットが巻かれていた。

「じ、じゃあこれって…」

「ペアで作ってみたんだけどな…まあ、そう言う意味で」
真はプロデューサーの言葉に不思議と胸がキュッと締め付けられた。

「そう言う意味って…その…」
恥ずかしくなって俯いてしまった真にプロデューサーが言う。

「うん…俺も…真の事、好きだよ…多分」
最後の言葉に真が肩を落とす。

「多分て!」

「いや!ごめん、なんか緊張しちゃって…歳も少し離れてるし、正直こうなるとは思ってなかったから…好きだよ」
言い終えると同時に真がプロデューサーに抱きついた。

「本当?」
真を支えるようにプロデューサーも真を抱き締めた。

「嘘じゃないよ、だからこれからも一緒に頑張っていこうな!」

「うん!………………………………プロデューサー?」

「ん?」

「えへへっ………………………………好き!」

2007年 12月 ○○日

それからの事を少しだけ日記につけようと思う。
春香と美希とはあの後ちゃんと仲直りをした。
謝るボクに二人はイベントの疲れも残ってるはずなのに笑顔で許してくれた。
春香が本気で怒るのも二人がいつでも笑顔でいられるのはきっと二人の傍に掛け替えの無い
ただ一人だけのファンとの信頼関係が生み出すものだとボクはこの時に気付いた。
それからボクはとんとん拍子にBランクからAランクへ、そしてAランクからSランクへと駆け上っていった。
今となってはボクも765プロに所属するトップアイドルの一員だと胸を張って言える。
これはきっとボクにも春香や美希みたいに掛け替えの無いただ一人のファンが傍に居て励ましてくれていたからに違いない。
あの時、どうしようも無くダメなボクを抱き締めてくれた彼の腕、彼の匂いは決して忘れない。
ううん、忘れる事なんてきっと出来ない。
何故なら彼がボクの直ぐ傍にいるボクの王子様だから…。

やっと見つけた。

やっと出会えた。

ボクだけの王子様…。

日記をつけるのは今日で最後にしようと思う。
やっぱりボクにはこう言うのは向かないみたいで、今となっては書く時間なんて殆ど無い。
それに、これからもっと忙しくなって、もっともっと嬉しい事が沢山やってくるに違いない。
彼と…プロデューサーと一緒の時間がこれから過ぎていくのだから。
それは彼がくれたブレスレットが教えてくれている。
ボクの誕生石、緑のペリドットと彼が選んでくれた赤のガーネット。
あの時はただキレイだと思って、彼とお揃いと言う事だけでとても嬉しかった。
彼も綺麗だったからと言っていた。でも…。
彼は知っているのかな?ガーネットの石言葉

変わらぬ愛…



パタンと厚めのノートを閉じる。

コンコンとドアがノックされる。

「はーい、どうぞー」
カチャリとドアが開いてプロデューサーが中に入って来た。

「真、そろそろ出番だぞ」

「うん」

「日記…書いてたのか?」
真の前に置いてあるノートをチラリとみてプロデューサーが声を掛ける。

「うん、でももう今日で最後」
真は小さな溜息を吐く。

「最後?」
不思議そうな面持ちでプロデューサーは言った。

「そう。忙しくなってかけなくなるし、それに…」

「それに?」

「嬉しい事は書き留めておくより、ずっと感じていたいから」
そう言うと真は椅子から立ち上がった。

「そうだな」
プロデューサーはニコリと微笑んだ。

「…」
真は立ち上がったきり動こうとしなかった。

「真?」
プロデューサーが声を掛けても真は動かなかった。

動けなかった。

よく見ると真は微かに震えていた。

そんな真の状況を察するとプロデューサーは真を優しく抱き締めた。

「緊張する?怖い?」
優しく声を掛ける。

「うん、うん…」
真もプロデューサーにギュッとしがみつく。

「大丈夫だよ。他のアイドル達もみんな同じだよ」

「うん…」

「真には…俺がついてるよ」

「…うん!」
プロデューサーの優しい声に真は更に強くギュッとプロデューサーを抱き締める。

「ありがとう、プロデューサー」

「どういたしまして」

「私…プロデューサーにこうしてもらうと安心する」

震えが止まると真はプロデューサーからゆっくり離れた。

「じゃあ、行ってくるね!」
勢いよく真がドアを飛び出そうとした。

「っと」
真が振り返る。

「どした?…え」
プロデューサーが声を掛けるとほぼ同時に真の唇がプロデューサーの唇を塞いでいた。

「大好き♪……えへへ、行ってきます!」
照れ隠ししながら真は部屋を後にした。


司会の人間が勢いよく声を上げる。

「今週第1位の菊地真さんでーーーす!」
黄色い歓声の中、真が手を振りながら勢いよく飛び出してくる。

その腕には2色の石が連なったブレスレットがライトの明かりでキラキラと光り輝いていた。

プロデューサーズサイド

「ねぇ、なんでこの色の石にしたの?」
隣に座っていた真が不意にブレスレットを見て言いだした。

「真の誕生石のぺリドットは決まってて、それだけだと何か寂しいかなって綺麗なガーネットを入れてもらったんだ」

「ふーん、でも凄いキレイ!ボク、こう言うの1回つけてみたかったんだー!」
真はキラキラと蛍光灯に自分とプロデューサーの腕をかざしてブレスレットを光らせている。

「喜んで貰えて嬉しいよ。じゃあそろそろ寝てくれ。明日も早いんだからな」
プロデューサーがそう言うと真はプクッと頬を膨らませた。

「えーもうちょっと一緒に居たいのに」

「そんな時ばっかり女の子らしくしないで…」
真は拗ねた様にバサッとベッドに潜り込んだ。

「おやすみなさーい」

「明日また迎えに来るから」

「はーい」
プロデューサーが火を点けていた煙草を吸い終える。

「スースー」
真の寝息が聞こえてきた。

「ったく…すぐに寝ちゃうくらい疲れてた癖に…」
呆れた顔でプロデューサーは真のベッドの傍に腰掛けた。

「さっきは、恥ずかしくて言えなかったけど…」
寝ている真にプロデューサーは呟く様に声を掛けた。

「ガーネットを選んだ本当の理由は、石言葉が気に入ったからだよ」
そう言うとプロデューサーは真の頬に小さく口付けた。

「おやすみ…」

 SS寄り